| その日は久々のいい天気だった。 ここんとこ台風が次から次へとかすめたり、上陸したりして暴風と暴雨で 青空なんてもう何年も見ていないような気がした。(実際は1週間ほどだったが・・) 青空につられてか、急に海が見たくなった。 電車で2駅ぐらい行ったところに、僕のお気に入りの場所がある。 そこはここのところ波浪警報がでていたため全然行けなかったので、 ちょうど海が見たくなっていたので行くことにした。 電車に乗っている間に海は見えたが、 やはり匂いも音も聞こえない電車の中では気分は晴れ晴れしない・・。 駅の改札をぬけ、バス停に向かおうとして僕は足を止めた。 なんだか、今度は歩きたい気分になったので歩いて行くことにしたが、 30分位歩いたところで判定負けし結局最寄りのバス停からバスに乗ってしまった。 ・・・・なさけない。 お気に入りの場所は別に有名な観光地でもなんでもない・・・・ただの灯台だ。 でも僕はそこが一番のお気に入りだった。 "何故?"と聞かれても、多分答えられないだろう。お気に入りとはそんなものだ。 バスを降り、まっすぐに灯台に向かって足早に歩いた。 もう気分はウキウキだった。心臓の鼓動が波打つ音が海の音と共に聞こえてきそうだった。 久々に見る灯台は、僕を見つけるなり 「やぁ、久しぶりじゃないか。元気にしてたかい?」 と挨拶してきた・・・・・ように僕には思えた。 当然、僕はこの挨拶に 「あぁ、見てのとうり元気さ!君のほうこそ台風で大変だったろ?」 などと、まるで無二の親友と何年かぶりに再会を果たしたような挨拶を返した。 と、そこへ 「桜衣君!? どうしたの、こんなところに?」 どうやら、僕は声に出して挨拶をしていたらしい。 その声に反応するかのように、近くにいた女の子が話しかけてきた。が、 僕はその女の子を知らなかった。 いや、どこかで会った気も・・・いやはや誰かに似ているかもしれないと思ったが、 久々に灯台君に会って気分がハイだったこともあり、 「やぁ、こんにちわ。」 とごく自然に口走っていた。 素直に聞けば良かった・・などと思いながら、相手にかなり失礼ではあったが まぁその内思いだすだろうなどと内心は思っていた。 (今思えば・・・・この時聞いていた方がどれだけよかったことか・・・・はぁ) 女の子は、僕の通っている橋ノ下高校の制服を着ていて、長い髪は三つ編みされている。 その長い髪は台風の置き土産の強い風になびかれ、僕の鼻先にふれた。 ?どこかで・・・ふと脳裏に誰かよぎったが、彼女が「ごめんね。」といいながら 髪を手で押さえたので、僕はあわてて会釈で答えた。 それから、学校のことなどを違和感なく彼女と話していると、 「桜衣君ってさ・・・・よくここに来るの?・・・さっき、灯台さんに話しかけてたみたいだけど。」 と聞いてきた。やっぱり聞かれてしまっていたようだ。・・・はずかしい。 「ああやっぱさっきの聞いてた?いや〜マズイとこ聞かれちゃったな。 ここはお気に入りでよく来るんだけど、 ここのところ台風で来れなかったものだから・・その、 つい嬉しくなっちゃってね。やっぱ変だよね、灯台に話かけるなんて。 そういう君もよく来るのかい?」 話題を変えようと逆に彼女にふってみた。 「ううん、私は今日がはじめて。ちょっと気晴らしがしたかったの。 それでふらふら歩いていたらここに来ていたわ。 そしたら、あなたが突然叫ぶからびっくりしちゃった。」 声にだすだけならいざ知らず、どうやら僕は叫んでいたらしい。・・・はずかしさ倍増。 「でも・・・」 「でも?」 「お気に入りだったなら、もっと早く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 その後の言葉は台風の置き土産と彼女の声が小さくなったせいで聞き取れなかった。 彼女が寂しそうな顔をしていたので気になって聞き返してみた。 「もっと早くなに?」 「ううん、なんでもない。 それにしても相変わらずね、いろんなものに話しかける癖は。」 ここで僕は初めてこの女の子に、”疑問”を抱いた。 僕のこの癖を知っている人はほとんどいない・・・・どころか、たった一人しかいなかった。 「なんでそのこと知っているんだよ!?・・・なんで!?・・・・ この癖はアイツしか知らないはずなのに、なんで君が?・・・」 と、僕はこれまでに無いほど焦った。 云うならば子供のころに”おねしょ”をした時より焦っていた。 僕が取り乱していると、 「なんでって・・・何言ってるのよ?知ってて当然でしょう?」 などと彼女は言ってくる。 僕はもう何がなんだか判らなかった。この癖を知っているのはアイツだけだと 思っていたのに、名前も思いだせない女の子にさえ知られている。 まさか学校中に広まっているのか!?などといろんな事を考えていると、 「もう!どうしたっていうのよ。そんなに驚かなくってもいいでしょう!」 と言いながら、彼女は胸ポケットからなにやら取り出し・・・そしてゆっくりとした動作で、 ”眼鏡をかけた” 「あーーーーーーーーーーっ!」 ここでやっと僕はこの女の子の名を口にした。 「なに?もしかして・・私だと知らずに喋っていたわけ? フツー眼鏡なくてもわかるでしょ!・・・呆れた。 桜衣君は、知らない女の子とこんなに親しげに話すんだ?」 「あっ、いや、ほら、ねぇ?」 「なにが、「ねぇ?」よ!」 「いつもは眼鏡かけてるだろぉ〜。髪型もそんなんじゃないしー!」 「いいわけはそれだけ?」 僕はこの後も何を言ったかは覚えていないが、彼女に弁明をつづけた。 そう、彼女はまさしく”彼女”だった。 いつの間にかあたりはもう暗くなりかけていた。 灯台に明かりが点いているのに気づき、僕は助けを求めるように灯台をみたが、 灯台は知らんぷりをしているかのように 僕をよけて辺りを照らしつづけた。 (「〜Possibility〜 −記憶−」より一部抜粋 原案:並木 桜 / 文:桜葉つかさ) |
